書きたがる脳

2018/01/28

アリス・W・フラハティ、ランダムハウス講談社。ハイパーグラフィア−何かが取り付いたかのように書く精神障害の一種−とライターズブロック−悪霊に取り付けたようにかけなくなる障害の一種−を、神経学と心理学、そして文学の方向から記した書物。サブタイトルは「言語と創造性の科学」
さまざまな種類の分析器具を、さまざまな角度から「書く」という行為に適応している本である。病理文献学ではおなじみの側頭葉てんかんと芸術の問題−−たとえばヴィンセント・ゴッホ−をはじめとして、ウィリニッケ野障害失語症とブローカ野障害失語症における言語問題、単極性うつ病と双極性障害と文学の関係性など、神経学的側面から見る始点がひとつである。
もう一つは心理学や認知科学の側面から「書く」という行為がどう見られているか、という側面。そして、文学分析の側面である。これらの領域は各々重なり合い、神経学的説明の次に心理学的説明が来て、文学における欝の問題を語る際には最新の向精神薬学の話がされる。筆者の博識と豊かな「書く」能力により、適切な話題の取捨選択と豊富かつ適切な文章が、これらともすれば中途半端になりそうな多彩さを強力に支えている。
横幅が広いのは学識の点だけではなく、医者として、筆者として、そして自身もハイパーグラフィアと躁鬱病を患った患者として、この書物で述べられている複層的な話題にふさわしい、多彩な立場から記述がされている。ただトリビアールを紹介するだけではなく、鋭く切り込んだ視点と意見を含んだ書物であり、それらには複層的な学術と立場から発言される重さと確かさが宿っている。
専門的になりすぎず、かといって可読性が低いわけでもない。大胆な意見の表出と、適切な学問知識の提示、そして自身の主観的な体験と意見をあえて積極的に述べる姿勢が、この書物を魅力的なものにしている。適切に纏まっている上になかなかの卓見が見え隠れする。名著。